公開日2015/07/17
公開日2015/07/17
※2017年3月まで開館。2019年に松島分校美術館がスタートしました。詳しくはこちら
吹上美術館:外観
江戸時代、琴平参詣船の発着港や北前船の寄港地として繁栄していた下津井港。周辺には、漆喰壁やなまこ壁の商家やニシン蔵が今なお残り、往時の面影が色濃く残っています。そんな港町の一角に2015年4月、現代アートを発信する小さな私設美術館「吹上美術館」が誕生しました。開館に尽力してきたひとりが、美術作家の片山康之さんです。長く自身の創作活動に没頭してきた片山さんは、2011年に開催したグループ展を通じ、同世代のアーティストたちと交流する楽しさと面白さを実感。「作家として人とつながる」ための活動をスタートさせました。その後、仲間とともに作品展やワークショップ、音楽イベントなどを開き、2013年にはアートイベントを企画する作家集団「クリエイターズラウンジ」を結成しました。そして翌年、一般社団法人となったのを機に、スタジオ兼イベント会場として占有できるスペースを探し始めたことが、当館開館へと発展していったのです。
1
1館内2階:展示室の様子
「クリエイターズラウンジ」が目指しているのは、「芸術を中心とした様々な活動を通じて、人々がコミュニケーションする『場』を生み出すこと」。その中心的役割を果たす片山さんと建築デザインを手がける山口晋作さん、陶芸家の尾鷲高明さんは、きれいな木造建築の建物を初めて目にした時、こう思ったそうです。「作家だけが利用するスタジオには大きすぎるし、もともと美術館だったこの建物で活動するとしたら、僕らだけの問題ではない」。3人は、地域の意向を知るために住人たちを招いての話し合いを重ねました。瀬戸内国際芸術祭を身近に見てきて、アートが持つ「人を集める力」を知っている人々は、この建物が美術館として復活することを望んでいました。やがて片山さんたちは、地域が求める「下津井の文化と、観光の活性化」の一助となるべく、旧美術館を再起動させ、地域の人々と一緒に運営していくことを決意したのです。
2
3
2館内1階:展示室の様子
3館内2階:展示室の様子
1
1左から:尾鷲さん 片山さん 山口さん
一般的な美術館とは異なり、「吹上美術館」には館長も学芸員も在籍しません。「この地でアートがどんな役割を果たせるのか、美術館をコミュニケーションの場にするにはどうしたらいいのか」。そう自らに問いながらこれからの方向性を探るアーティストと、児島や下津井に住む人々が一緒になって、展示やイベントを企画・開催しています。そのスタイルは、「地域の美術や文化は、美術館や専門家がつくるものではない」という考えと、「運営に携わることが、アートや美術館って何だろうと考えるきっかけになれば」という思いから生まれたものです。片山さんは、「現代アートはただ観るという楽しみ方だけでなく、作品から感じたことを誰かと話し合う面白さがあります。また、そのなかで自分なりの捉え方をつくっていけるという楽しみも生まれます」と話して下さいました。静まり返った展示室で作品を鑑賞する美術館とはひと味異なる鑑賞方法を提案する当館では、町づくりの講演会やスケッチ会など多様な催しも計画中です。
2
3
2テントを制作・設置:児島ジーンズストリートのイベント
3大人と子どもが楽しめる音楽イベント「うたうた2014」
細い路地沿いに下がる暖簾が目印の「吹上美術館」。そのエントランスには、毎月1回不定期でコーヒーの芳醇な香りが漂います。それは、近隣の自家焙煎コーヒー店『watermark』が「吹上美術館」のためにブレンドし、ここでのみ販売する「Shimotui Coffee」の香り。手回しの焙煎機を使い、わずかな香りや音の変化に注意しながら、丁寧に焙煎した豆を用いた、淹れたてのコーヒーは、館内への持ち込みも可能です。コーヒー片手に、肩の力を抜いて現代アートを鑑賞したり、そこに居合わせた誰かと言葉を交わしたり…。豊かな香りは、アートへの感受性をより豊かにしてくれるかもしれません。
現代アートを紹介する私設美術館。1階展示室では、新進気鋭のアーティストによる個展を季節ごとに開催するほか、地域に関連したイベントも予定している。また、2階展示室では、全国的・国際的に活躍している、倉敷・岡山にゆかりのあるアーティストの作品を常設展示する。「海や古い町並みのリズムとは異なる下津井の新たな魅力を、ここから発信していきたい」と、「クリエイターズラウンジ」のメンバーと地域の人々が奮闘中。