公開日2018/08/16
公開日2018/08/16
「大原美術館理事長の大原あかねさんとの出会いが、館長となるきっかけになりました」。そう振り返るのは、「語らい座」館長の山下陽子さん。
当時、山下さんは、校長を務めていた県立倉敷南高等学校で進学型キャリア教育「倉敷町衆(まちしゅう)プロジェクト」に取り組んでいました。「世の中をよくするには、目の前の課題を自分事として考える人を育てなければならない」。山下さんのそんな思いから生まれたプロジェクトは、生徒たちが倉敷の大人たちと交わる中で価値観を揺さぶられながら、自ら、倉敷が抱える課題を発見し、その解決方法を考えることで、さまざまな力を養うというものでした。このプロジェクトを、あかねさんも積極的に支援・協力してくれたそうです。
旧大原家住宅の公開に際して、あかねさんの父である九代目・謙一郎さんは、「語らい座」にこんな思いを抱いていました。「大原家は倉敷の地への誇りとこの地で暮らす人々への深い愛着を原動力に、多くの事業を生み出してきた。そんな大原家の過去を掘り下げ、現在を考え、『あきんど道』とも言うべきその思想を、自分事としてそれぞれの未来を創り出すきっかけにしてほしい。この屋敷の持つ『場のチカラ』を、社会のため、倉敷のために役立てたい」。やがて山下さんは謙一郎さんとあかねさんから、ここでその未来を創り出すための「教育」を託され、館長となったのです。
「語らい座」の名には、「catalyzer=触媒」という意味も込められています。「歴史的価値のある建物や大原家を知ってもらうための単なる記念館ではなく、思いがけない出会いや学びのある場にしていきたい。あかねさんは『直接働き掛けるというより、ここに来て何かを感じ、触発され、それがまた次の触媒になっていく、そんな形が望ましい』と話されていました。ここで語り合ったり、感じたり、楽しく学んだりすることが、新しい発想や未来につながる。そんな『触媒』のような存在になれたら」。そう話す山下館長は、文化や年齢などさまざまなギャップを持つ人が交流し、互いに学べるきっかけ作りに力を入れています。たとえば、本物の古井戸を囲んで語り合う「井戸端会議」や、教師向けのセミナー「くらしき未来教師塾」、大学生の「ポスターセッション」。また今後は、県外や海外の中高校生を呼んで倉敷の学生にグローバルな体験をしてもらう、「くらしき町家留学」の実施なども計画していくそう。
そうした姿勢は、「マナバイト生」と呼んでいるアルバイトの大学生を含め、受付や文化財の見守り、ガイドなどを担う30人ほどのスタッフにも浸透しています。自らも「語らい座」について学ぶスタッフたちの真摯(しんし)なガイドは、来館者に好評を博しているといいます。