公開日2019/11/14
公開日2019/11/14
「倉敷本染手織研究所」の研究生たちは、一年間の在籍期間中に手紡ぎと本染め、手織りの技術を学びます。
「手紡ぎとは、糸車を使って、人の手で糸を紡ぐこと。素材は綿や羊毛が主ですが、時によっては繭や葛(くず)からも糸を紡ぎ出します。今では知らない方も多いのですが、山野に自生する葛という植物の繊維で織ったものを、葛布と言います。上品な光沢のあるとても美しい布で、昔は帯や武士の裃(かみしも)などに使われていたんですよ」。そう話す石上さんは、研究生が葛布で装丁(そうてい)した本を手に、こうも話してくれました。「葛はそこら辺にもったいないくらいたくさん生えています。ですから、糸の取り方を教えておけば、誰かが後の世に伝えてくれると考えています」。
研究生たちは、そうして紡いだ糸をさまざまな色に染めるため、天然染料を用いる本染めの技術も学びます。「近年は、化学染料染めに対して草木染めという言葉が使われています。どんな草木でも色を出せる草木染めは、趣味的に遊ぶにはとてもおもしろい手法です。しかし、遊びの要素を入れたくないという考えから、外村先生はあえて古い時代から伝わる本染めという言葉を使われたのです」。手織りの技術は、水平の機や外村自身が考案した縦機(たてばた)など、研究所が有する9台の織機を使って学びます。たとえば外村が生み出した「倉敷ノッティング」という椅子敷は、縦機に強く張った経糸(たていと)に、緯糸(よこいと)を一目一目絡めて結び、毛足を切り揃えて、各段の結び目を筬(おさ)でしっかり打ち込むという過程を繰り返して作ります。
「民藝品は、使う人のためになるよう親切に作られています。そのことを先生は、『日夜の暮らしの中でまじめに働く、健康でいばらない美しさを備えた品』と表現されていました」と石上さん。
そうした教えを受ける研究生たちは、自ら織り上げた布をマフラーやコースター、ブックカバー、バッグなどさまざまな品に仕立てます。ここでは各自で糸を紡ぎ、染色し、織った布で製品を作り、検品します。自分一人で、その工程すべてに責任を持てる工人を育てていることは、当研究所の大きな特徴となっています。