公開日2022/03/28
公開日2022/03/28
1:アートとアーティストに対する使命
2:あらゆる「鑑賞者」に対する使命
3:子どもたちに対する使命
4:地域に対する使命
5:日本と世界に対する使命
これは、80周年を迎えた2010(平成22)年に作られた使命宣言で、今まで歩んできた大原美術館の在り方を照らす道しるべのようなものです。なかでも注目したいのが「3:子どもたちに対する使命」。その対象を未就学児にまで広げて教育普及活動に力を入れているのが、大原美術館の大きな特徴です。たとえば「未就学児童対象プログラム」は、自分1人では来館できない「小さな人」たちにアートに触れてほしいと1993(平成5)年から実施。館内で彫刻鑑賞や美術館探検などを体験するプログラムで、例年30近くの倉敷市内を中心とした幼稚園・保育園から、延べ3000人以上の児童が参加しています。ほかにも、美術館全体を使ってさまざまなワークショップが開催される夏のアート祭り「チルドレンズ・アート・ミュージアム」、2021(令和3)年におもちゃ王国(玉野市)に誕生した大原美術館のサテライトパビリオン「大原こども美術館」など、活動内容は多岐にわたります。ここまで力を入れる理由を尋ねると、「小さい時の幸せな思い出は、大人になってくじけそうな時に、とても大きな力となって包み込んでくれると思うのです。アートを通じて、その幸せの体験を育んでもらえたら」と柔和な笑顔で答えてくれました。
使命宣言を掲げた10年後の2020(令和2)年。コロナウイルスによる臨時休館や入館者数の制限によって、大原美術館も大きな打撃を受けたといいます。企業傘下でもなく、行政の設置施設でもない「私立美術館」のため、収入源の約8割を入館料に頼らざるを得ない状況。当時のことを大原さんはこう振り返ります。「コロナ禍を機に、大原美術館の意義をスタッフ全員で話し合いました。いろいろな意見が出ましたが、『ここ、倉敷に居続けること』という声が多く上がりました。作品に会いに来られる方々のため、『その扉を倉敷で開き続ける使命』を果たさなければならない。そのことを改めて再認しました」。
2020(令和2)年10月には、クラウドファンディングで資金支援を募り、わずか6日という短期間で目標金額を達成。支援とともに寄せられる応援の声に励まされたといいます。さらに経営の多角化を図るため、2021(令和3)年から「オフィシャルパートナー制度」を導入。これは既存の後援会法人会員を別制度にしたもので、企業側にとっては広告宣伝費や福利厚生として今まで以上に美術館を利用しやすくなる点がメリットです。倉敷のため、美術館の未来のためにと、志のある企業に協賛してもらえること、またその思いをストレートに感じられることは、「とても心強く、勇気づけられるもの」だと大原さんは語ります。「それ以上に嬉しいのが、オフィシャルパートナーの方々が美術館をどう活かせるかを考え、行動に移してくださることです」。ある企業は、名画が並ぶ美術館内で内定式を開催。企業側も美術館側も、もちろん初めての試みです。絵を見て感じたことを話し合う対話型鑑賞を交え、内定者同士の交流やアートへの親しみを深める貴重な機会に一役買ったといいます。
また、来たる100周年を見据え、「みんなのマイミュージアム」という新たなスローガンも発表。その意図を大原さんに尋ねると、「地域に根差すこと、地域とともに文化を育むことが、私たちに課せられている使命だと思うのです。このスローガンは、すべての人たちに対して大原美術館の扉は開かれていることを改めて表現したものです」。その思いを原動力に、大原美術館は未来へと新たな歩みを始めています。