公開日2018/01/15
竹の特性を生かし、デザイン性が高く、
長く愛用してもらえる家具を。
- 株式会社 テオリ (TEORI. Ltd.)
公開日2018/01/15
竹の特性を生かし、デザイン性が高く、
長く愛用してもらえる家具を。
タケノコ作りが盛んな倉敷市真備地区で、間伐で捨てられていた竹を環境素材として
活用する道を探る株式会社テオリ。木材より硬く弾力性に富む竹を独自の方法で集成材に加工し、
デザイン性の高い家具や雑貨に仕上げて、国内外に発信しています。
倉敷市真備地区は、岡山県下最大の生産量を誇るタケノコの産地。その栽培は、約190年前に真備町箭田に住む妹尾嘉吉が現在の総社市下倉から持ち帰った、3本ほどの孟宗竹を植えたことに始まったと伝わります。真備の土が栽培に適していたことから、やがて上質なタケノコができ、その味わいが当時この地を治めていた岡山の領主に高く評価されたため、多くの人が栽培し始めたと言われています。
そんな真備地区から国内外に、竹を用いた家具や雑貨などを発信しているのが『TEORI』です。1989年の創業当初は、木材を使った家具部品の加工を行っていましたが、1998年に孟宗竹の集成材作製に成功して以来、さまざまな竹素材製品を開発・製造・販売しています。
「良いタケノコを作るためには間伐が必要ですが、伐採した竹の処理は昔も今も地域の課題となっています。そこで、捨てていた竹を素材として有効活用できれば、地域の方たちのためにもなり、ここでしかできないオンリーワンの製品を作れると考えたのです」。 そう話すのは、テオリを創業した中山正明社長。子どもの頃からもの作りが大好きだった中山さんは木工の道に進み、大手メーカーや地元家具店で家具職人としての腕を磨きました。「創業当初は、家具不要論がささやかれていた時代。だからこそ、ほかにないもの、質の高いものを作りたいと強く思っていました」。竹に活路を見いだした中山さんは、竹製品開発のため、竹の集成材の完成に向けて独自の研究に着手したのです。
「竹は、木の中で最も硬いといわれるナラよりも硬く、弾力性にも優れています。そして昔から物差しに使われているように、環境による長さの変化がありません。しかし、その硬さゆえに細工が難しく、繊維の方向に割れやすいという性質があります。また、糖分などの養分を多く含む夏場は虫が付きやすいので、適切な防虫処理が欠かせないという難点もあります。そのため、竹の製品作りは避けられてきたのです」。 そう話す中山さんですが、植林しなくても繁殖し、木だと70〜80年かかるところをわずか3〜5年で素材となる竹を、時代にマッチした「環境素材・エコ素材」と考え、世に出すための研究・開発を続けてきました。まず、専門的な相談ができる大分県の工業試験場に毎月足を運んだ中山さん。1年以上の試行錯誤を経て、竹の不要な栄養分の除去と炭化による硬化を行う「乾留釜」を使った、独自の防虫処理の方法を確立させます。また、中が空洞となっている竹を家具の材料とするために、集成や加工の技術も追求。やがて生み出した竹の集成材を用い、1999年に一部に竹を使った家具を完成させました。
より多くの人に親しんでもらうため、2004年からは近隣の大学との協同で「竹集成材プロジェクト」をスタート。さらに、地元ゆかりのデザイナーたちとのコラボで、高いデザイン性を備えた製品を生み出しています。
「使う方たちに、より快適で美しい暮らしを送ってほしい」との想いを胸に、竹素材の製品開発に注力する中山さん。そんな中山さんが率いる『TEORI』の工場では、職人の一人一人が、長く愛用してもらいたいと、精度の高い家具作りに励んでいます。
そうして生み出された『TEORI』の家具は、竹独特の強さやしなやかさを秘めたフォルムと、竹ならではの木目の美しさが身上。2006年から2年連続でグッドデザイン賞を受賞したほか、2007年には、厳しい審査を見事通過して、パリの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に初出展。また2008年の洞爺湖サミットではファーストレディ用の椅子にも選ばれました。ここ倉敷市真備地区で生み出した家具を、世界に向けて発信しています。
竹集成材の剛性と弾性を生かし、シャープな見目と柔らかな座り心地を融合させたダイニングチェア。2007年グッドデザイン賞受賞。
『TEORI』オリジナルの「3次元加工(曲面加工)」で、しなやかなフォルムに仕上げたダイニングチェア。美しさと機能性を併せ持つひと品。
竹集成材ならではの小口の模様を生かしたボウル。表面を彩る、若葉色や墨色といった日本の伝統色が印象的。2006年グッドデザイン賞受賞。
竹集成材のしなりを利用して、花を生ける空間を設けた一輪挿し。浮遊感のある美しさが、暮らしをそっと彩ります。
1989年、木材の家具部品加工会社として創業。現在は、竹製家具の製造・販売など、竹素材の有効活用による竹循環型社会を目指しています。社名の由来は、「基本・原点・初心」を意味するドイツ語。本社に隣接するショールームでは、多彩な竹素材製品と出合えます。
「20年前の真備地区には、美しい竹林がたくさん広がっていました。しかし近年、管理する人の高齢化などで維持が難しくなっている状況にあります」。荒れ始めた竹林を憂う中山さんは、静かな口調で言葉を続けます。「かつての美しい風景を取り戻し、守っていきたい。竹を生かす道を辛抱強く探り、竹とともに生きることが、その夢に繋がっていけば…」。
2016年、『TEORI』はその第一歩となる新たな局面を迎えました。真備地区の本社近くに工場を新設し、真備の竹を用いた集成材の製造をスタートさせたのです。
「最初は真備の竹で作っていた集成材ですが、マンパワーの問題もあり、2001年頃からは中国で生産していました。家具メンテナンス用に自社開発した『竹オイル 竹表皮塗料』には真備の竹を使用していますが、ずっと、ここ真備で、真備の竹を使った家具を作りたかった」と話します。
現在トライアル期間として、新工場では、原料となる竹を地元や近隣の人から買い取っています。「伐採した後の処分に困っている竹を買い取ることで間伐する方が少しでも増えれば、その分だけ竹林が昔の姿に近づくと考えたのです。現在は週に4〜5人から問い合わせがあります」。
真備の竹を使った家具の製造と、真備の竹林の再生。中山さんは、長年の夢を結実させるべく、自らに課した難題の解決へ向けて、着実に歩みを進めています。