公開日2022/12/7
公開日2022/12/7
水島臨海鉄道は、旅客が乗車できる数少ない臨海鉄道です。車両も貴重なものが多く、ひまわりのラッピングが印象的な「MRT300形気動車」は、水島臨海鉄道専用に作られたもの。全長18mの車両が一般的ですが、こちらは21mもあり、さらに車内のシートはロングシートと固定クロスシートの千鳥配置になっているため、定員が増加し、輸送力の向上に一役買っています。また、旧国鉄時代の車両「キハ30」「キハ37」「キハ38」が今でも現役で運行しているのは、全国で水島臨海鉄道のみ。多様な車両が行き交う様子はまるで、動く博物館のようです。
水島臨海鉄道の車両の中でもレジェンド車両といえるのが「キハ205」です。主に昭和30年代に系列を含め1000両以上が作られたマンモス車両で、国民の足として全国各地で活躍しました。しかし時代の流れとともに徐々に姿を消し、動く状態で残るのは、水島臨海鉄道が保有する1両と茨城県のひたちなか海浜鉄道が保有する1両の2両のみ。「キハ205」の車内には栓抜きや灰皿、オルゴール付き車内放送マイク、旧国鉄ロゴ付き扇風機などがいまだ健在で、レトロな面影が随所に残ります。
「旧国鉄やJR四国を経た、キハ205を水島臨海鉄道が購入したのは1988(昭和63)年。ピーク時、当社では12両が在籍していましたが、2017(平成29)年に最後の1両も引退しました」と話す運輸部の大森史絵さん。年に1度のお披露目会以外は留置され、刻々と朽ちていくキハ205を心配する声が社内や鉄道ファンから多くあがっていたといいます。
なかなか答えが見つけられない中で、2020(令和2)年に新型コロナウイルス感染症が拡大。その年は設立50周年を迎える節目の年でしたが、緊急事態宣言発令や人出の減少により鉄道離れに拍車がかかり、一時は利用者数がコロナ禍前の半数にまで激減。収益が減少し、引退した車両に修繕を施すことも難しく、廃車という最悪の事態も現実味を帯びる中、「鉄道ファンにこの車両の命運をかけてみよう」とクラウドファンディングに挑戦。わずか1週間という短期間で目標金額を達成し、支援とともに寄せられる多くの人の思いに救われたといいます。
集めた資金でエンジンを整備し、錆で朽ちた車体を修理。書体、色、塗分けなどの細かい仕様については当時の資料を探すところから始め、正確に塗り直しました。座席シートを国鉄ブルーのモケットに張り替え座席バネも新しくし、2022(令和4)年3月にかつての姿へと復活を遂げたのです。現在は構内限定で走行することができ、イベント時に特別公開しています。併せて、キハ37を新首都圏色赤11号に、キハ38を八高線色に塗り直し、旧国鉄時代のレア車両がかつての輝きを取り戻しました。
「キハ205の復活は水島臨海鉄道の社員はもちろん、多くの鉄道ファンが希望していたことでもありました。復活後に行われた撮影会のイベントでは、鉄道ファンから『よくここまで綺麗に仕上げてくれた』と感謝のお言葉を頂戴することもありました」と話すのは、運輸部主任・中桐拓馬さんと運転区・川上亮さん。「今後はキハ205を保存しつつ、さらに活用できたら」と嬉しそうに話す姿が印象的でした。
「変わったのは、車両だけはありません。私たちの意識も大きく変わりました」と、大森さん。「人口減少やコロナ禍で旅客数が減少し、全国的に鉄道の在り方が問われる中で、『水島臨海鉄道が運ぶのは人や物だけでなく、物語や感動も運んでいるんだ』、その意義をスタッフ全員が強く認識するようになりました。部署を超えての意見が今まで以上に交わされるようになり、若手社員から自発的に企画が寄せられるようにもなりました。私たち水島臨海鉄道は小さな鉄道会社ですが、だからこそ柔軟に取り組めることが多くあると思うのです」。その熱意を原動力に、水島臨海鉄道では未来へと新たな歩みを始めています。