公開日2023/03/9
公開日2023/03/9
「KURASiXの活動は、建物の美しさを伝えることだけが目的ではありません。『建物は暮らしの一部であり、その時代の暮らし・文化が表出したもの』だということに改めて気付いてもらうきっかけづくりでもあるんです。その象徴的な場所がここ」と、メンバーの山口晋作さんが地図を示したのは、倉敷美観地区でした。かつて天領として栄えた白壁のまちとして知られていますが、周りを見渡すと、歴史ある町家や蔵を再生した住居・店舗が多いことに気付きます。「倉敷では古い建物をただ保存しようとするのではなく、新しいものと融合させながら次の時代へと再生させている。それこそ倉敷の町並みの独自性だと思うのです」とも語ってくれました。
独自性はそれだけではありません。「倉敷美観地区には、年代も、工法も、素材も、手法も大きく異なる建物が混在しながらも調和しています。それはつまり『今も生き続けるまち』であり、他の伝統的建造物群保存地区にはない非常にユニークな個性だと思うんです」と稲垣さん。ここには、赤レンガとツタが印象的な「倉敷アイビースクエア」(明治22年築)、洋風木造建築の「倉敷館」(大正6年築)、ギリシャ神殿風の「大原美術館 本館」(昭和5年築)、存在感を放つモダニズム建築の「倉敷国際ホテル」(昭和38年築)などが混在し、独特のムードを作り出すのを感じます。「さらに言えば、倉敷の建築を通じてシビックプライド(郷土への誇りや愛着)を育みたい。それだけのものが、倉敷にはあるんです」。
最後に、倉敷と建築の関係性について尋ねると、メンバーの仁科真弘さんはこう答えてくれました。「倉敷のまちづくりに大きく寄与した大原總一郎氏は、半世紀以上前の全国紙の新聞コラムに、『都市を美しくしているのは、道の両側に並んでいる建物、街路樹、緑地、その他に加えられた賢明な配慮であって、決してその広さや舗装ではない』という趣旨の文章を寄せていました。倉敷のまちの魅力は、まさにこの『賢明な配慮』を体現した点にあると思うのです。それを結実させたのは、現代にまで続く先人たちの膨大な努力の蓄積とその継続の姿勢。倉敷の町並みや建物を見ると、『未来のために、現代を生きる私たちが重ねるべき賢明な配慮とは何なのか?』という深い問いを突き付けられます。『白壁のまち倉敷』という響きが連想させる、凍結保存を目指すまちでは決してありません。生き生きと人が暮らし続ける持続可能で魅力的な倉敷のための都市・建築の姿について、これからも学び、考え、発信していきたいと思います」。