公開日2024/12/10

特集 58 倉敷メイドの逸品が生まれる。モノ作りの現場へ 9 特集 58 倉敷メイドの逸品が生まれる。モノ作りの現場へ 9

Chapter2 スタジオ・グラスの手法で
独自の造形と美しさを生み出す

 「もともと親父は、水島で輸出用のガラス玉(クリスマスツリーのオーナメント)を作っていた職人でした。ただ、ガラスの工業生産化やプラスチック製品の台頭もあり、このまま職人を続けるのが難しいと思っていた頃、民藝愛好家から『コップを作ってほしい』と依頼があって。見本で手渡されたのがメキシコのコップだったんです」。

小谷栄次さん
倉敷ガラス

 依頼があった1964(昭和39)年は、インターネットはもちろん、教則本すらない時代。同じガラスとはいえ、コップとガラス玉では作業も道具も違う。加えて、コップを作る従来の吹きガラスは、複数人のチームで製作することが一般的でした。手探りの状態で工夫を凝らし、小回りが利くよう吹き竿を短くしたり、網目模様を刻めるように空き缶に改良を加えたり―。試行錯誤の末に確立したのが、自らの工房で全工程をたったひとりで行う「スタジオ・グラス」という新しい制作スタイルだったのです。

工房の様子
工房の様子
工房の様子
工房の様子
工房の様子

 「その工程は、溶解炉の中で赤く輝く水あめ状に溶けたガラスを、吹き竿に巻き付けることから始まります」と栄次さん。竿に息を吹き込み、ガラスを膨らませたら、溶解炉に入れ、再び竿にガラスを巻き付けます。今度は、缶の型の中にガラスを入れて膨らませ、倉敷ガラス独特の網目模様をつける。水あめ状のガラスを、たったひとりで形成するには、時間が命。瞬間を見極め、出来上がりを想像し、時に繊細に、時にダイナミックにガラスと向き合います。職人が紡ぎ出す品々には、ほかではまねのできない造形と、ガラスでありながらどこか温かさをも感じさせるやさしさが息づいています。

作業風景
作業風景
作業風景
作業風景

 「完成した親父のコップを気に入ってくれたのが、倉敷民藝館の初代館長を務めた外村吉之介先生でした」。それが契機となり、1965(昭和40)年には「水島ガラス」として本格的に製作をスタートし、「のちに『倉敷ガラス』と命名してくださったのも先生でしたね」と当時を振り返る栄次さん。「ただ最初に作った青色の小鉢は『鮮やかすぎる』と先生からダメ出しがあって(笑)。大量に仕入れた青色ガラスをどうしたものかと親父が頭を抱えていたときに、目にとまったのがダルマ(サントリーオールドの通称)の酒瓶でした。当時工房を構えていた水島は港町で、飲み屋もたくさんあったから、ダルマの空瓶も簡単に入手できた。仕入れた青色ガラスと酒瓶を混ぜて試作を作ってみたら、先生が『この色はいい!』と誉めてくださって。以来、親父もこの色をよく作るようになりました」。

小谷栄次さん
倉敷ガラス

 酒瓶が手に入らなくなってからは青ガラスと緑ガラスを混ぜて作られるようになり、なかでも緑を帯びた深みのある青色は「小谷ブルー」と称されるブランドカラー。静かな光りを放つ深い青色は、変わらず多くの人を惹きつけています。

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  • 特集 vol.11 クラシキの朝市めぐり
  • 特集 vol.24 クラシキの古民家カフェ
  • 特集 vol.52 クラシキの古民家ワークスペース

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