公開日2015/11/30
公開日2015/11/30
情緒ある町家の中には、貴重な宿泊体験ができるスポットがあります。
暮らすように過ごしてみてこそ見えてくる倉敷とは? その魅力をレポートします。
老舗の銭湯屋さん、畳屋さん、酒蔵さん、理髪店さん…暮らしに寄り添う店が人々の暮らしを昔と変わらず今も支え続けています。暮らすという視点から見ると様々な発見があります。時代と共に味わい深さが増すこの町の普段の姿を覗いてみました。
昼食後、再び倉敷美観地区の散策開始。倉敷川沿いから、一本路地に入ると、そこには倉敷の人々の生活が息づく暮らしの場があります。畳屋さん、酒蔵さん、理髪店さんなど、暮らしに寄り添う店や場所がそこかしこに。職人らしき人や、お客さんを笑顔で見送る店主など、「町の暮らしを支える人」にも、すれ違いました。今でこそ少なくなった「本物の専門店」「顔の見える専門店」が、この小さな町ではまだまだ愛されているようです。
その散策途中で見つけた「阿智神社」と書かれた看板。途中、出会った地元の人から「ここは地元の氏神さんを祀っとる神社なんよ」と聞き、階段を上って境内を目指すことに。取材したときはちょうど七五三の時期。親子3世代でお参りする家族の姿がちらほら。また、週末は結婚式も執り行われることもあるのだとか。倉敷で暮らす人たちにとって、とても神聖で大切な場所であることが伝わってきました。
印象的だったのは、その神社の高台からの景色。ここ倉敷は、ビルなどの新しい建物の高さ制限を設けるなど、この地の財産とも言える伝統的な景観を活かした町づくりを進めている町。先ほど散策した倉敷美観地区や近代的なビル、それを取り巻く住宅街が違和感なく混在する様子は、伝統を重んじながらも、常に新しい文化や時代の流れを柔軟に取り入れ発展してきた町を象徴する景色にも見えました。時代と共に味わい深さが増すこの町の普段の姿はどんな感じなんだろう? これから始まる町家暮らしが、ますます楽しみになってきました。
夕陽が西に沈む頃、ポツリ、ポツリとやさしい明かりに包まれる美観地区。暗闇の中から浮かび上がるように照らされた倉敷格子や白壁の建物、それらが倉敷川の川面に映る姿は、独特の世界観を放ち、本当に幻想的でした。昼とはまた違った風情を体感できるのは、滞在するからこその醍醐味。昼間は観光客の人たちで賑わう通りも、夜になると少なくなり、ゆっくりとその景色を堪能することができます。静かな美観地区を歩くのは、ちょっとした贅沢な気分。学校帰りの制服姿の高校生や地元の親子、サラリーマンが行きかう日常の風景もなんだか新鮮!細い路地を通っていると、まさに隠れ家的な小料理店や割烹など、昼間気づかなかった新しい発見もありました。次の目的地は銭湯。しっとりとした夜景タイムを満喫しながら、次なる名スポットを目指します。
夜の倉敷美観地区を抜けて訪れたのは、地元の人に愛される銭湯「戎湯(えびすゆ)」です。大正時代から続く老舗の銭湯は、男女で入り口が分かれ、入るとすぐ番台があるという昔ながらのスタイルもいまだ健在。脱衣所には、飴色に輝く板張りの床、木製のロッカー、籐の籠、レトロな冷蔵庫、昔懐かしい看板などが残り、まるでここだけ時間がとまったかのよう。入口の棚を見ると、常連客のシャンプーやリンスなどを入れた「マイ洗面セット」がずらり。いかにこの銭湯が「生活の一部」として愛されているかを垣間見た気がします。
石造りの四角い浴槽には、湯がなみなみと張られ、湯温は少し熱めの43℃。昼間の散策で疲れた体をほっこり包み込んでくれます。湯上がりには、倉敷っ子にはおなじみの倉敷鉱泉のラムネをいただくことに。ラムネとは、ビー玉で栓をしたサイダーのことで、老若男女カラカラと音を鳴らしながら飲んでいたのが印象的でした。「今日もえぇ湯だったねぇ」「足元に気ぃ付けて帰られぇよう」と地元の人や番頭の女将さん。笑顔とともにかわす会話に、心まで温かくなりました。
銭湯から出たあとは、いよいよ夜ご飯。町家を改装した和食処あり、蔵を再生した夜カフェありと、個性豊かな飲食店が多いのは、さすが観光都市・倉敷ならでは。おいしいお酒と料理と、倉敷の魅力に浸りながら、夜が更けていきました。