公開日2016/03/22
公開日2016/03/22
白壁の商家や町家が建ち並び、天領として栄えていた頃の風情を今に伝える倉敷川畔。土蔵や古民家をリノベーションした、カフェやギャラリーなども続々と登場している本町・東町界隈。
そんな倉敷美観地区は、国内外から多くの人が訪れている岡山県内随一の観光地ですが、細い路地に佇む名店との思わぬ出合いも大きな魅力となっています。今回は隠れ家的な一軒を求めて、にぎやかな表通りから一歩足を踏み入れてみした。
小さな公園と民家の間の細い路地の奥にある『常衛門食堂』は、看板を見逃すとたどり着けない、まさしく隠れ家のような一軒。昼はランチ、午後はスウィーツやドリンク、夜はディナーや日本ワイン、全国から厳選した日本酒などを、日本庭園を眺めながら楽しめます。
このお店は、倉敷市内にあるフランス料理店『ビストロ フチューラ フルール』のオーナーシェフ・八束雄さんが、2号店として2015年10月にオープンさせました。共に店を切り盛りするのは、奥様のしずかさんです。
「毎日食べても食べ疲れない、お母さんの味を心がけています」とオーナーの八束さん。下ごしらえから盛りつけまで、手間を惜しまず丹精込めた料理はもちろん、ソースやドレッシングまで、すべて一から手作りしています。
京都での板前修業も含め、長く料理の世界を歩いてきた八束さん。「本来、当たり前のことなんですけどね」と笑いますが、その丁寧な仕事ぶりで、多くの人を惹きつける味わいを生み出しています。
昼は、主菜と副菜2種に味噌汁、ご飯が付く「おまかせ定食」や、5種類のスパイスを独自にブレンドし、和風だしで奥行きのある味に仕上げた豆腐入りの「食堂カレー」が好評。ほかにも、建物の大家さんが育てた、無農薬や減農薬の季節野菜の持ち味を薄味で引き出した「白菜と厚揚げ煮」など、時々の一品料理もメニューに並びます。
お腹を満たした後は、手入れの行き届いた回遊式の築山庭園へ。ゆったりと散策していると、そこここの木々や草花が季節の移ろいを教えてくれます。
「この界隈は、観光客向けの飲食店が多いんです。だから近所の人や倉敷で働く人たちが、気軽にふらりと立ち寄れる、町の台所のような食堂を開きたかった」。そう話す八束さんは、当初はもっと、こぢんまりとした店を想定していました。しかし、この建物や庭を気に入り、倉敷市の「倉敷まちづくり基金(※)」を利用できたことから、今回の運びになったと言います。
※倉敷美観地区や玉島の町並み保存地区などに隣接する地区の歴史的町並みを守るとともに、地域の魅力向上、賑わい創出等のまちづくり活動を支援するための補助金制度。
八束さんは「この地に馴染みやすいよう、地名かここに住んでいた人の名前を入れたい」と考えていたそう。そんな時、この家の大家の父で、以前ここに住んでいた原田常衛門さんの表札が、今も家の入口にかかっているのが目に留まりました。「名前を使わせてもらいたい」とお願いしたところ、とても喜び、快諾してくれたのだとか。
また、あえて「食堂」と名付けたこだわりは、料理や飲み物のリーズナブルさにも現れています。「毎日食べられる味でも、毎日食べられない値段では意味がありませんから」。そのため高級な食材ではなく、新鮮で納得できる食材を用いているのだとか。さらに、料理を終日提供するため、多くの飲食店にある午後の休みは設けていません。ランチタイムを逃してもちゃんとした食事をとれる安心感も、馴染み客が増えている理由のひとつとなっているようです。
倉敷美観地区の路地を抜けた先に誕生した隠れ家的食堂。「いつでも、気軽に訪れてほしい」と、家庭料理をベースにした体想いのやさしい料理を、リーズナブルな値段で提供します。昼はランチ、午後はカフェ、夜は食堂とフレキシブルに活用できるのも魅力。美しい回遊式の築山庭園を望みながら、ゆっくりと食事を楽しめる一軒です。「おまかせ定食」900円。