公開日2016/06/29
公開日2016/06/29
会場を歩くと、しっくりと手になじむ茶碗や美しい曲線のガラスカップなどの食器から、備前焼のスパイスミルや銀製スプーンといったキッチンツール、スツールなどの小さな家具まで、日々の暮らしを豊かにしてくれる手仕事の逸品がたくさん。クラフトショップとは異なり、作家とコミュニケーションを交わしながら作品を手に取ることができるのが「フィールドオブクラフト倉敷」の一番の魅力です。早速、参加している作家の皆さんに、いろいろと話を聞いてみました。
「このコースターは、毛糸を紡ぐところから自分で手がけています」と教えてくださったのは、染色作家の新藤佳子さん。倉敷在住の新藤さんは、地元に構えるアトリエで「ホームスパン」を製作しています。「ホームスパン」とは、「家(home)で紡ぐ(spum)」という意味で、羊毛の原毛を洗い、手で糸を紡ぎ、手織りで仕上げる毛織物のこと。同じ作品でも、羊の種類や色の紡ぎ方、織り方によって、一点ごとに表情や手触りが異なるため、何度も手に取って見入ってしまいました。
新藤さんは、「倉敷民藝館」初代館長で民藝の発展に貢献した故・外村吉之介(とのむらきちのすけ)氏が設立した「倉敷本染手織研究所」出身。昭和28年から続く「染め・織り」の学び舎で、技術だけでなく「手仕事の精神」も教わったのだそうです。
「これからも丁寧にホームスパンと向き合っていきたい」と笑顔で語ってくれた新藤さん。イベント当日は作品と一緒に紡ぎ車も展示。自ら足で板を踏み、手際よく糸を紡ぐ様子も見学させてもらいました。
続いて出会ったのは、「フィールドオブクラフト倉敷」初参加という名古屋市出身の陶芸家・古川まみさん。東京で、陶芸教室の講師としても活動した後、結婚を機に2014年から倉敷へ。オリジナルマット釉を用いた「掛け分け技法」によって作られる、しっとりとした質感のある器が代表作です。当日は、倉敷に移ってから新たに製作されたという、アースカラーの釉薬が特徴のアクセサリーも展示・販売していました。
「倉敷はギャラリーや手仕事にまつわるショップが多く、ものづくりに携わる人が多いまちなので、情報過多の東京と違い、欲しい情報にはすぐ手が届きます。まち全体の時間もゆっくりとしているし、制作に集中できるんです。」と古川さん。イベントに参加しているお客さんや作家同士で積極的にコミュニケーションを交わし、自らイベントを楽しもうとする姿も印象的でした。
「フィールドオブクラフト倉敷」代表・宮井宏さんの話にもありましたが、このイベントは、ものづくりの背景や作る過程を伝えることも大切にしているイベント。実際にろくろを回す様子が見学できたり、普段目にすることのない製作道具が展示されていたりと、各ブースの作家自身が現場の空気感や作品に込めた想いを伝えようとさまざまな工夫を凝らしていました。
中でも注目を集めていたのが、このイベントの信念に共感し、初期から参加し続けている滋賀県在住の陶芸家・市川孝さん。茶杯や急須といった自身が手がける作品の使い心地をより深く知ってもらうべく、自家製リアカーに茶道具を一式持参!作品で一服できるデモンストレーションを行っていました。「嗜好品ではなく、暮らしになじむ道具として使ってほしい」。そんな熱い想いがひしひしと伝わってきました。