公開日2020/11/16
公開日2020/11/16
1996年に倉敷芸術科学大学の教授となった高橋さんは、学生を指導するなかで、「美術文化との接触は大学からでは遅い。高校生に働きかけなくては」と考えるように。そこで2001年、高校生を対象とする公募展「全国高校生現代アートビエンナーレ」を大学のなかで立ち上げます。
ところが、「やってみると高校生でもちょっと遅いかなという気持ちになった」と高橋さん。2005年に、「秀 art studio」の活動として「沙美アートフェスト」をスタートさせました。このイベントは、沙美海岸の駐車場全体にブルーシートを敷いて、幼稚園児から中学生までのグループで、1.5メートル四方のキャンバスに共同制作するというもの。
「とにかく、何の制約も受けず、のびのびと創作するなかで、子どもたちに自己発見してもらいたかった。開催にあたっては、子どもたちの人間性を広げるためにと、倉敷・岡山の企業や地元玉島の『おかみさん会』などがずいぶん協力してくれました」。当イベントは10回を重ねたところで惜しまれながら休止しましたが、新たな形での再開を考えているそう。
2006年には、高橋さんと藤田さんが私財を投じて創設した基金をもとに、「秀 art studio」が若い芸術家を海外に遊学させるための「秀桜基金留学賞」を開始しました。「私自身がイタリアに渡った時、日本でいかに狭い世界で生きてきたんだろうと感じました。だから、海外で外国の文化に接して、自分の世界を広げてみろよという気持ちが大きかった」と高橋さん。
当賞は通算28人を海外に送り出し、当初の予定どおり10年間で終了しましたが、その後も受賞者の展覧会を開催するなどのフォローを行っています。「秀 art studio」のスタッフ・岡村勇佑さんも、受賞者のひとり。「イタリアで過ごした1年間は何事にも代え難い貴重な時間。誰のために作られたのかが明確に現れたイタリアの建物やアートに触れて、一般市民のための作品を作り、なるべくたくさんの人に届けようと心に決めました」。そう話す岡村さんは現在、「アートを通じた心豊かな暮らし」を提案すべく、色彩銅版画の制作に取り組んでいます。
「アートを通して人を育てたい」とさまざまな活動を展開し続ける「秀 art studio」。これからの目標は、高橋さんと藤田さんの作品を収蔵・展示する私設美術館の創設だと言います。
【高橋秀】
画壇の芥川賞とも称された安井賞(1961年)を受賞。1963年にイタリア政府招聘留学生としてローマ美術学校に留学した後は、ローマで制作活動に没頭し、独自の表現方法を探究する。芸術選奨文部大臣賞(1987年)、日本芸術大賞(1988年)、倉敷市文化章(2012年)など受賞多数。世界中の美術館や公的施設に作品が収蔵・展示され、国際的な美術作家として名を馳せる。2020年、文化功労者に選定される。
(1)高橋 秀「大いなる期待」 (2)高橋 秀「月の道」
【藤田桜】
現在の大妻女子大学を卒業後、少女雑誌「ひまわり」の編集者として働きながら、田園調布純粋美術研究所でデッサンなどの表現方法を学ぶ。やがて独自に考案した布貼り絵で学研の「よいこのくに」の表紙絵専属作家となり、40年近く表紙を飾る。また、子ども向け図書の表紙絵や絵本を多数発表。その温かい作風は、国内外の多くの人に愛されている。
(3)藤田 桜「初夏のなかま」 (4)藤田 桜「よいこのくに」創刊号表紙