公開日2017/12/8
公開日2017/12/8
「私は玉島に嫁いできたのですが、常々、玉島の文化には厚みがあると感じていました。数多くの茶室や人々の暮らしに根付いた茶の湯文化を知るうちに、それこそが文化の厚みのルーツではないかと考えるようになったのです。だからこそ、茶室や史料が失われる前に調査・研究して後世に残すとともに、知られざる玉島のすごさを広く伝えたいと思っています」。
そう熱く語る安原早苗さんが設立し、コーディネーター役を担う「玉島茶室群研究会」。2012年の設立以来、その調査・研究活動を顧問として大きく支えているのが、「イケダ数寄屋研究所」の所長を務める茶室研究者の池田俊彦さんです。
「父方の実家が玉島という縁もあり、『旧柚木家住宅(西爽亭)』の茶室の修理と今後の活用法を考えるために協力してほしいと、安原さんに声を掛けられたのが始まりでした」。30年以上大学で教鞭を執ってきた池田さんは、日本の伝統建築、中でも数寄屋(茶室)の専門家。京都の茶室の実測調査なども経験してきた池田さんは、玉島に40ほど残る茶室を茶室群として捉え、それらの存在を高く評価しています。「何より、限られたエリアにこれだけの茶室が現存する例は、全国的に見ても稀(まれ)です。その一つ一つは小さな茶室ですが、全体から時代の変化を読み取ることができますし、興味深い造りの茶室も少なくありません。また、昭和40年前後まで新たな茶室が造られていたことや今も現役で使われていることなどに、玉島の文化度の高さが表れていると思います」。
アプローチは異なりますが、玉島の伝統と文化を広く、後々まで伝えたいという共通の思いを抱く安原さんと池田さん。二人を中心に、「玉島茶室群研究会」はさまざまな活動を展開しています。
「玉島茶室群研究会」の主な活動は、玉島に現存する茶室を調査・研究し、記録として残すこと。茶室が建てられた由来や建築様式、使用されている木材の種類などを調査するほか、間取り図や茶会記といった史料、各家に伝わる茶道具の収集・保存も行っています。「これまでに約30軒の茶室を調査しました。一日も早く、茶室群の全貌をつかんで、それぞれの特徴を踏まえた活用法や維持管理の仕方を提案していきたい」と池田さん。
また、2014年からは年に1回、「玉島茶室巡り」を実施しています。『遊美工房』で開催する展示会では、パネルや映像、和紙で立体的に作成した「起こし絵」などを用いて、調査の成果を分かりやすく紹介。合わせて、「多くの人に玉島の茶の湯文化に親しんでもらいたい」と、正式な茶会を開いたり、初心者向けの茶席を設けたりしています。
そのほか、現存する茶室の所有者の理解と協力を得ながら、実験的な茶室体験を不定期で開催しています。
「玉島の茶室群や茶の湯文化を、観光資源にしていくための活用法も模索しているところです。将来的には、茶室専門の資料館や美術館を開設し、茶の湯文化に浸りたい方が、しっとりゆったりとした時間を過ごせる町にしていきたいですね」。安原さんはほほ笑んで、そう展望を話してくれました。
遊美工房では、定期的に玉島茶室群研究会主催のイベントが開催されています。