公開日2023/12/26
公開日2023/12/26
瓦葺の立派な門、春にはサクラやツツジ、ハナミズキが花開く広い庭、大正時代末期に建てられた母屋、そして、かつて足袋を製造していた工場を改修した離れ…。
JR児島駅から北東3キロメートルほどの倉敷市児島下の町エリアに残る、そんな屋敷を利用し、2018(平成30)年に開設されたのがイベントスペース&シェアオフィスの『児島舎』です。
イベントスペースとなっているのは、縁側から柔らかい光が差し込む和室や板間がある母屋と、板間と土間からなる離れの1階部分。ワークショップや音楽などのイベントスペースとして、またグループ展や個展などのレンタルスペースとしても利用でき、創作活動の発表や交流の場となっています。
また、季節の移ろいを感じられる庭を利用することもできます。
一方、シェアオフィスとして利用できるのは、離れの2階部分と母屋1階の8畳の板間です。離れの2階部分の壁は白く塗りなおされていますが、きれいに拭きあげてオイルがけをしたオリジナルの床と、頭上に走る赤松の太い梁は往時の姿を残しています。広さはおよそ60平方メートル。現在はランドスケープデザイナー、建築家、グラフィックデザイナーの3人がシェアしています。
「祖父や母の生家でもあるこの家は、曽祖父が建てたもの。昭和50年代からは、岡山で事業を起こした祖父が母屋を週末住宅として利用していて、私自身も家族と一緒に何度も訪れていた場所でした」。
そう話す『児島舎』の林英理子さんは、こう続けました。「もともと足袋製造の工場だった離れは、商標登録した時の書類から1918(大正7)年頃に建てられたもののようで、母屋はそれ以前から建っていたのだと思います。けれど、祖父が亡くなった後は使われることがなくなり、手入れも行われなくなりました」。
そんな中、林さんは屋根が落ちてきていた離れの解体が検討されていることを知ります。町の景観をデザインするランドスケープデザイナーとして活動する林さんは、常々「伝統的な町並みや建築物がストックされない日本の状況に虚しさを感じていました」。
その思いから、「児島の町並みの一端として次世代に残すために解体を中止してもらい、当事者として活用しなくてはならない」と、2016(平成28)年に再生・活用を決意したのです。
やがて2018(平成30)年春、伝統構法にこだわる建築家や大工、大学生など多くの人の協力のもとで改修工事を終え、『児島舎』としての新たな門出を迎えました。
「建物や庭は、人に使ってもらわないと生きてきません。イベントスペースとして多くの人に使ってもらうとともに、地域に根ざしたクリエイティブな場所にしていきたい」と、林さんは話します。
シェアオフィスの入居条件は、「ひとりでの作業が中心のクリエイティブな職業の方」。ランドスケープデザイナーとして活動する自身も含め、「空間をシェアする異業種の入居者に協働できる関係性を築いてほしい」との願いから、入居前の面談を欠かしません。
そうしてオープンから5年を経た現在、空間をシェアする3社の間では、写真も得意なグラフィックデザイナーが建築家の建てた家を撮影したり、その庭を林さんが手掛けるなど、さまざまなコラボレーションが実現しています。
また、「この建物と庭を次世代に残したいという思いからスタートしたので、『児島舎』全体をシェアするという考えが基本」と林さん。年に数回の庭の草刈りや、『児島舎』が主催するイベントの企画・運営なども、極力、みんなでシェアしているのだとか。
シェアオフィスは随時メンバーを募集中、イベントスペースでは定期的な教室やイベントなどを行いたい方を募集しているそうです。
「イベントスペースも含め、ここを活用するみなさんに気持ちよく過ごしてもらい、使い続けてもらうことで、次世代に受け渡していきたい」と、林さんは言葉を締めました。