公開日2025/12/25
公開日2025/12/25
1909(明治42)年創業の「渡辺酒造本店」は、倉敷市連島町にある新旧の住宅が立ち並ぶ小路の奥に佇んでいます。
なまこ壁の酒蔵、赤いレンガを積み上げた煙突、店頭に下がる酒林(杉玉)。昔ながらの造り酒屋の姿をそのまま残すこちらでは、和釜を直火で熱し、その蒸気で甑(こしき)と呼ばれる桶に入れた米を蒸す「直火和釜蒸し」や、醪(もろみ)を詰めた酒袋を槽(ふね)に積み重ね、ゆっくりと酒を絞る「槽搾り」など、伝統的な手法にこだわっています。




「酒袋に醪を詰めたり、槽に積み重ねたり、圧搾機の圧力を調整したりと、すべて手作業で行うので手間と時間はかかります。しかし、無理に圧力をかけずゆっくりと搾ることで、雑味が少なく、まろやかでおいしい酒になるのです」と、5代目蔵主の渡辺英気さん。
代々受け継いできた技を守り続ける渡辺さんは、そのいっぽうで、30年以上前から「リラックスさせることでまろやかな味わいに仕上がる」と酒を醸す蔵にモーツァルトを流し、「木村式自然栽培米」を用いた純米吟醸をはじめとする3つの新銘柄を「倉敷純米酒新時代」と銘打って国内外に向けて展開しています。さらには作陽音楽大学(現 くらしき作陽大学音楽学部)の協力を得て「酒蔵コンサート」を開催するなど、さまざまなことに挑戦してきました。





「渡辺酒造本店」の代表銘柄は、岡山の米と敷地内の高梁川水系の井戸水を用い、備中杜氏の技で仕込む「嶺乃誉」です。
「長く親しまれてきた『上撰嶺乃誉』、雄町米や朝日米の特別純米酒などがある『嶺乃誉』は、それぞれに個性はありますが、いずれもやさしい甘さとしっかりとした旨みを楽しんでいただけます」。
そう話すのは、県内最年少杜氏の渡辺大輔さん。父・英気さんや先輩杜氏に学びつつ、次代の蔵主として、酒造りを一手に担っています。




たとえば、口に含んだ時のリンゴを思わせるフルーティな香りや、雄町米由来の甘さを大切にした「純米大吟醸 夢倉敷」。「木村式自然栽培」の朝日米が醸し出す吟醸香とやさしい口当たりが特長の「純米吟醸 沙沙(ささ)」。備前朝日米の旨みを低温でじっくりと引き出した辛口の「純米酒 夢倉敷」。
英気さんが2019年に銘柄に加えた3種類も、現在は大輔さんが手がけています。
「代々造り続けてきた『嶺乃誉』を大事に守りながら、『日本酒は味が強くて苦手』という方や若い世代におすすめできるようなモダンな味わいの銘柄も立ち上げたい。そうすることで、日本酒に対する価値観の幅が広がると考えています」と、これからの思いを語ってくれました。






肥料や農薬、除草剤に頼らない「木村式自然栽培」の朝日米由来の甘さとフルーティな香り、心地よくやさしい口当たりが際立つ甘口の純米吟醸。

ふくよかな甘みと旨み、カラメルのようなビターな余韻が特長の食中酒。濃醇な酒造りに向いた雄町米のみを用いながら、飲み疲れしないすっきりとしたテイスト。


昔ながらの町並みが残る連島地区にある、明治42(1909)年創業の酒造。「嶺乃誉」に代表される数々の銘柄は、高梁川流域の豊かな水と厳選された国内産米を使用し、備中杜氏の伝統の技を駆使して生み出されている。
