公開日2017/11/9

特集Vol.16 倉敷銘菓

老舗の味

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松涛園

千石船 / 松涛園

千石船 / 松涛園

独自の茶の湯文化が息づく玉島の、和菓子の老舗

 江戸時代には、数多くの北前船(千石船)や高梁川の高瀬舟が発着していた玉島港。綿や米、種子、油種、大豆、小豆などの取引で大変栄えた玉島は、備中地方随一の港町とまで謳われました。そうして財を成した商人や地主たちの間で、趣味や社交手段として親しまれていたのが、1780年にこの地に建立された高運寺から広まった茶の湯でした。以来、現在にいたるまで、玉島の人々の間には独自の茶の湯文化が連綿と受け継がれているのです。

 そんな玉島にある、和菓子の老舗『松涛園』の創業者・亀山芳太郎は、もともと、肥料やお茶、雑貨、荒物などを扱う問屋を営んでいました。ところが、多くの商人と同じく茶道をたしなむうち、「客人をもてなす菓子を作りたい」と思うようになった芳太郎は、明治21年(1888年)に当店を開き、職人を使って自らが気に入る菓子を作らせるようになったと伝わります。初代・芳太郎が自らの雅号から命名した『松涛園』は、やがて京都の菓子店で修業した二代目の格一郎に菓子作りへの思いとともに引き継がれていったのです。

港町・玉島の栄華をもたらした千石船にちなむ銘菓

 昭和レトロな趣の「銀座商店街」にある『松涛園』。店内には、和菓子を中心とする多彩な味わいが並んでいます。上生菓子や朝生菓子、洋の焼き菓子。古くは玉のような小島が浮かぶ海だったことからついた、玉島の異名にちなむ創作菓子「玉の浦」…。
中でも、港町としての玉島の栄華をもたらした船の帆をかたどった「千石船」は、戦後間もない頃、三代目の亀山久寿雄が考案した品。お茶うけや土産品として愛され続けているロングセラーです。

 製法はいたってシンプル。北海道産の手亡(豆)を幾度もアク抜きして炊き上げ、風味よくすっきりとした甘さの白あんを作ります。それを小麦粉と新鮮な卵を用いた皮で包み、さっくりと焼き上げて、ひとつひとつ焼き印を押します。「味も形も何ら変えず、材料も製法もそのまま」と話す四代目の健治さんは、先代に倣って誠実にこの銘菓を作り続けています。そこには、「この菓子を味わうことで、玉島の栄えある歴史に思いをはせてもらいたい」という、郷土への想いが秘められているのです。

和菓子が入口となって茶文化に親しんでもらえたら

 『松涛園』の次男として生まれた亀山健治さんは、もともと店を継ぐ予定ではなかったそう。ところが、大学で学んでいた22歳の時、父・久寿雄さんからの「お前やってくれ」という電話一本で心を決め、菓子職人の道を歩み始めました。「代々引き継いできたものを絶やすわけにはいかないですから。ただ、お茶席用の上生菓子に関しては、引き継いだ味に自分なりの創意工夫を加えています」。

 『松涛園』が菓子を手がける茶席は、年間約50席。「同じ菓子は二度と作りません。席の趣向やお軸、菓子器などに合わせて、デザインや味を考えることもあります」。菓子作りに真摯に向き合う健治さんは、新たな取り組みも行っています。たとえば、画家や陶芸家などさまざまなアーティストのデザインを元にした創作菓子とともにお茶を振る舞うイベントで、菓子製作を担ったり、美術展に併せて開催される呈茶で展示する絵に合う菓子を提供したり…。「お茶の文化にはいろいろな入口があります。僕が作る菓子がそのひとつとなって、そこからひとりでも多くの方に茶の湯に親しんでもらえたら」。独自の茶の湯文化が息づく玉島の老舗ならではの願いが、次はどのような形で現れるのか楽しみです。

備中随一の港町と謳われた、玉島

 玉島は、かつて小さな島々が点在する海でした。江戸時代に松山藩が大々的に行った新田開発よって、羽黒神社が鎮座する羽黒山を中心に広がる町となります。そして、北前船と高瀬舟の水運により港町として栄えた元禄時代には、備中随一の港町とまで謳われました。昭和の面影を色濃く残す町並みを歩くと、かつての繁栄ぶりを色濃く残す商家や土蔵と出合えます。

松涛園しょうとうえん

  • 所在地 岡山県倉敷市玉島中央町1-12-18
  • お問合せ Tel :086-526-7655
  • 営業時間 8:30~18:00
  • 定休日 無休
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