公開日2019/01/29
公開日2019/01/29
風情ある塗屋造りの町家が軒を連ね、倉敷らしい町家の暮らしが今も息づく倉敷美観地区の東町通りで、明治2(1869)年から楠戸家が営む「はしまや呉服店」。その建物(主屋、米蔵、炭蔵など)は、「楠戸家住宅」として平成8(1996)年に岡山県内で第一号の国の登録有形文化財に指定されました。
そんな老舗呉服店の脇にある門をくぐり、石畳の路地を奥へと進んだ突き当たりに、ひっそりと佇むかつての米蔵が『夢空間(サロン)はしまや』です。
オープンしたのは、平成8(1996)年。「楠戸家住宅」が国の登録有形文化財に指定されたのを機に、「お茶を飲みながら楽しい時間を共有できる場、人が集まる場にしたい」との思いから、楠戸家五代目夫人の楠戸恵子さんが開きました。
築120年のこの蔵を改装したのは、古民家再生の旗手として活躍する「倉敷建築工房」の楢村徹さん。木目の温かさに満ちたカフェへと様変わりした空間で、ランチやスイーツ、コーヒーなどを味わえます。
「六代続く楠戸家の一員として、家を守っていきたいと思っています。この『夢空間はしまや』を通して、時代に合わせて変化させるべきところは変えつつも、古き良きものを大切に守っている倉敷のこと、そこで暮らす私たち家族の思いを知ってもらえたら…」。
そう話すのは、オープン20周年を迎えた2017年3月に、当店の創業者である母・楠戸恵子さんから店を受け継いだ紀子さんです。
プランナーという肩書きも持つ紀子さんは、「観光される方たちだけでなく、地元の方々にも気軽にここを訪れていただき、倉敷の文化財でもある『楠戸家住宅』を楽しんでほしい」と考えているそう。
その実現のために図ったのが、カフェメニューの充実でした。まず、「楠戸家住宅」の目の前で南イタリア料理店『トラットリア はしまや』を営む、兄の伸太郎さんに相談。そこで働いていたシェフ・岩城真紀さんを、当店に迎えることになりました。
「食べ終わったお客様に、おいしかったよと言ってもらえることが幸せ」。笑顔を見せる岩城さんが腕を振るうランチやスイーツは、この空間にしっくりとなじむ品ばかりです。
季節野菜の滋味を生かした料理を中心に、小鉢とご飯、みそ汁、ドリンクが付く「本日のランチ」や、倉敷市観光客誘致協議会が主催する「倉敷アフタヌーンティー」をきっかけに登場させた、彩り華やかな「はしまやアフタヌーンティー」。いずれの料理も、「地元を盛り上げよう」とがんばっている生産者から届く季節の野菜や果実を、極力用いて作られています。また、器やお盆のほとんどは、楠戸家の蔵に眠っていた明治時代の品々です。
頭上に走る飴色に染まった梁からも感じられる長い時を重ねてきた空間で、時代ものの器に盛りつけた料理やスイーツを提供している『夢空間はしまや』。楠戸家の人々や料理を作る岩城さんが伝えようとしているのは、古き良き時代と現在、歴史的財産と人の間にある、目に見えないつながりかも知れません。
アートの展覧会やミニコンサート、ライブなどが開催されることもあるので、チェックしてみては。
倉敷美観地区の「本町・東町の通り」の東端あたりに佇む「楠戸家住宅」は、老舗『はしまや呉服店』の店舗兼住居。明治時代の町屋造りの特徴をよく備えることから、岡山県では最も早く国の登録有形文化財に指定されました。また、三代目の楠戸與平と親交の深かった大原總一郎に伴われ、司馬遼太郎やバーナード・リーチなど国内外の著名人が多数来訪したことでも知られています。