岡山県産米と高梁川水系の水を用い、
蔵元杜氏と地元の蔵人たちが醸す。

　江戸時代、神仏習合の「瑜伽（ゆが）大権現」参詣の海の玄関として栄えた倉敷市の田の口港。塗屋造の屋敷やなまこ壁の蔵などが、今なおその姿を残す旧参道口近くに佇むのが、創業240年の「十八盛酒造（旧石合酒造場）」です。
「これが、初代の志保屋幸助が1785（天明5）年に酒造免許である『酒株』を購入した頃に交付された書付です」。そう言って８代目当主の石合敬三さんが古い書面を見せてくれました。

　以来、造り続けてきたのは「瀬戸内の魚介に合う旨みのある酒」。
「長く『三吉』という清酒を造っていましたが、5代目の石合多賀治（たかじ）が『たとえ原価を欠いても、いい原料を使ってもっとよい酒を』という思いから造りはじめたのが『十八盛』です」。
　地域の人々に日々の晩酌用として長く愛飲されてきた「十八盛　上撰」、まろやかな口当たりとフルーティな香りを楽しめる「十八盛　山田錦純米大吟醸」、味わい深い酸味と独特の旨みが魅力の「十八盛　山廃純米雄町」。多彩な味わいがそろう「十八盛」をはじめとする酒はすべて、岡山県産米と高梁川水系の水を用い、杜氏でもある石合さん率いる地元の蔵人たちによって丹念に醸されています。

芳醇な旨みと甘み、酸が生むキレのよさ、
微発泡感を楽しめる「多賀治」。

「倉敷の山海の幸を食べてきた私たち造り手の好みが反映されるからこそ、自然と地元の食に合う酒になるんです」。そう話す石合さんは、約30年前に大手電機メーカーの開発部門を辞して蔵に戻り、2012年から杜氏を務めています。元来、化学好きで探究心旺盛な石合さんは、新たな酒造りにも積極的に取り組んできました。

　その代表格が「多賀治」です。
「搾りたてのおいしさをそのまま届けるには、ノーストレスでそっと瓶詰めしたらいいのではないか」。そんな考えから試行錯誤を重ねて完成させた「多賀治」は、穏やかな香りに芳醇な旨みと甘み、高めの酸が生むキレのよさが持ち味で、開栓したては火入れ酒とは思えない発泡感も楽しませてくれます。

「酒造りをするたびに新しい発見があり、不思議と次に造る酒のイメージが浮かんできます」。それを目指して、数々の新たな酒を生み出してきた石合さんはこうも話します。「日々さまざまな分析結果を記録していますが、酒造りは化学的な知識や分析だけでは足りません。実際の経験で研ぎ澄ました感覚と酒造りのセンスも必要」。
　年々自らの感覚を磨いてきた石合杜氏。2026年には新たに、数年にわたり試験醸造してきた「たかじ」の銘柄化を予定しているそうです。