公開日2023/03/28
公開日2023/03/28
矢吹 最初、私が牧さんと出会ったときに「ワンダーランドを創ろう」と理想を語ったんです。ワンダーランドというのは、下津井に来ればさまざまな飲食が楽しめ、海で遊べて、景色も眺められる、そんなテーマパークのようなものが作れたらと。観光客だけでなく地元の人たちも下津井へ目を向けてくれるのではないかと思ったんですよ。 牧 矢吹さんの理想は「ワンダーランド=観光促進」ですが、正田さんに理想を聞くと「町ごとホテル=空き家・古民家再生」。僕の理想は「下津井金山」。下津井に来た人に金山のように大きな仕事を自らの手で掘り当ててほしい、そのための知恵は惜しみなく貸す(笑)。 正田 そんな3人が集まって約6年。定例会議は130回(2023年3月時点)を超え、私が力を入れている下津井の空き家・古民家再生の実績は実に10以上。そこに移住者が入居・出店してくれ、下津井も賑やかになりつつあります。 牧 そして2023年3月には、移住定住促進のための「せとうち古民家お試し住宅」を倉敷市と連携して保存地区に完成させました。その完成式典には、伊東香織倉敷市長はじめ多くの関係者に参加いただきました。
矢吹 ここは以前、豆腐屋だったところなんですよ。「むかし下津井回船問屋の斜め向かいだから、店にするには非常にいい場所だ」ということで、会社で購入したのが2020年12月のことでした。家の中には家財道具はあるわ、ほこりもあるわで片付けるだけでも大変でね。 正田 そうそう(笑)。建物も古かったから耐震補強をしっかり行い、梁や柱を活かしつつリノベーション。なんば建築工房の若い職人が棟梁として現場に入り完成させました。私は2017年頃から移住フェアに呼ばれ、古民家についての説明をしているのですが、そこで実感するのが「古民家」「瀬戸内」への注目が高まっていること。目の前に瀬戸内海が広がる下津井で古民家を生かしたお試し住宅を構える意義は、とても大きいと確信しています。
牧 下津井シービレッジプロジェクトの事務所もすぐ近くだから、仲間と触れ合う機会も多い。町おこしの会議に来てもらうことだって大歓迎です。 正田 「地域と移住者との間をつなぐ」ことが、僕らの組織の役割。何のつてもないところにポンと来て、自分でゼロから始めるのは大変だから、地元と移住者の関係を緩やかにつなぐ役割が僕らの活動になるんじゃないかと。移住者もメンバーにいるから、生きた声を聞く事だってできるし、輪も広がる。当たり前ですが、移住は生活から職業、人間関係まで変わるケースが多いです。下津井シービレッジプロジェクトでは、空き家相談はもちろん、開業相談や就職相談といった下津井で暮らすためのあらゆる相談に応じています。移住者は人生をかけて下津井に来ようとしてくれているのに、迎え入れる我々も真摯に向き合わないと。 牧 新しく移住してきた若い人たちに、僕らが引っ張られている面もあるよね。 正田 まさにそう!移住者の方たちの感性がすごく新鮮で、それが楽しくて。最初は意識してなかったけど、外からの感覚、最先端の感性に学ぶことも多いですし、町おこしのモチベーションにもつながります。 矢吹 下津井に移住者が増え、活動に賛同する仲間も増えてきました。それぞれがIT関係、繊維関係、教育関係と豊かな才能の持ち主で、彼らを中心にまちが動き始めた気がするんですよね。ここまでの道のりは紆余曲折ありました。民間会社によって中西家が宿泊施設になる予定でしたが、2021年に事情により頓挫。今は正田さんの会社が下津井の将来を見据えて敷地建物を買い取りました。活用法についてはこれからの課題です。 正田 うちは建築屋です。大工仕事で建物を丁寧に作ることを生業としていますが、「まちを作る、暮らしを作る」という一歩先を見つめることこそ大切なんじゃないかと考えているのです。空き家を解決しようというのは、口では簡単に言えます。しかし、解決するためにはその土台となる「まちづくり」をしないと、根本的な問題解決には至らないと思うのです。1組の移住者が下津井に来てくれたら、空き家が1つ埋まり、ひいてはうちの工務店の仕事につながるかもしれません。下津井での生活が始まると、地元学校の生徒数増、経済効果にも良い影響を与えると思うのです。空き家という「点」から下津井という「面」へ、賑わいをどんどん広げていきたいです。
明治時代の回船問屋の建物を復元した資料館。母屋など当時の商家の様子がうかがえるほか、下津井にまつわる資料の展示や、地元特産物の販売、食事処もある。
祇園神社の参道付近から東の田之浦に続く旧道沿いは、本瓦葺きの屋根や土蔵など古い町並みが残る。県の町並み保存地区に指定。
昔ながらの人情、美しい自然、おいしい海の幸。これら下津井の恵まれた資源を守り、届けたいと、下津井わかめを看板商品にした海産物を加工・販売。
江戸時代後期に建てられた蔵をカフェにリノベーション。ハンモックに揺られながら、井戸水で淹れた珈琲やカラフルなボトルドリンクなどが味わえる。
下津井唯一のケーキ屋さん。定番のケーキからフォトジェニックなケーキまで幅広い種類がショーケースに並ぶ。焼き菓子も販売。
小・中・高校生を対象とした地域密着型の学習塾。個性に合わせて個別で、自分のペースで時間をたっぷりかけて、時には集団やグループで学べるのが特徴。
古民家を改装して生まれ変わった、移住を検討する方が倉敷を体感できるお試し住宅。1階に1室、2階に1室あり、それぞれ和室6帖とキッチン、トイレ、風呂を備える。